道徳教育をすすめる有識者の会では、平成20年2月より、道徳教科書作成に向けて「『道徳教科書』勉強会」を月1・2回の頻度で行ないました。『13歳からの道徳教科書』作成に向け、「どのような教科書をめざしていくのか」という大枠を構築するために、毎回専門家の講師をお迎えして議論を重ねました。そして、戦後の道徳教育の実態や問題点などについて明らかにし、なぜ道徳教科書づくりが必要なのかという論点を整理しました。

 ここでは、各回の要旨を公開いたします。

第1回「道徳教育の実情について」

植田宏和氏 (元全日本教職員連盟委員長)

 文部科学省調査(平成15年度)によると、学校教育法で定められている標準授業時間数の年間35時間に対して、90%以上の学校が年間30時間以上を道徳の時間に充てているとあるが、全日教連で実施されたアンケート調査の結果とは大きく異なる。「道徳の時間」の形骸化が懸念される。

 いくら指導要領で道徳教育が謳われても実施されなければ意味がない。また、教師の質の向上なくして、どんな改革も無意味であることに注意したい。

第2回①「道徳教育の歴史」

石井昌浩氏(拓殖大学客員教授・元国立市教育長)

 国際化の中で日本の文化・伝統を尊重する教育が要請されている。日本人としての私達の方向はナショナルからインターナショナルへ向かっているが、その前提としてのナショナルアイデンティティが必ず必要となるであろう。「未来を拓く主体性ある日本人の育成」を求めて、私達は道徳教育を考えていく必要がある。

第2回②「道徳教育をめぐる法的問題」

八木秀次氏(高崎経済大学教授・日本教育再生機構理事長)

 教育法学では、道徳教育について人の価値観にどこまで関われるのかという法的問題があり、そこでは憲法第19条「思想・良心の自由」が重要視される。一般的に、「思想・良心の自由」は、「内心」にとどまる限り保障されなければならないが、「外部的行為」となる場合は一定の制約は受け得ると考える。

 それに対して左翼陣営は、「内心」と「外部的行為」の不可分性を強調し、そのつながりと連続性を説く。したがって、いかなる方法論においても、国家や学校が子供たちの考え方を特定の方向に向けて変えていってはならないとする。

 しかし、私達の依拠すべきは教育基本法である。ここでは「教育の目標」として、あくまで「態度を養う」と明記されている。この「教育基本法的価値」を強調すべきである。

第3回「なぜ戦後の道徳教育は不毛だったのか」

野口芳宏(日本教育技術学会名誉会長・植草学園大学教授)

 やはり敗戦によるショックは大きく、戦争への非常なる嫌忌から、誤った、あてにならない「平和至上」に陥ってしまった。そうした社会思潮を背景とすることで、戦後の道徳教育は、①価値を押し付けない「曖昧」、②考えさせるための「複雑」、状況によって異なるという「相対」という3つの傾向に支配されることになってしまった。

 好きか嫌いかは自分が決め、良いか悪いかは社会が決める。正しさは歴史が決める。教育に携わる者は歴史に責任を持たなくてはならない。そのためにも、道徳教育をおこなうにあたってはきちんとした「柱」を設定する必要がある。そのひとつは、「孝心」(親があっての子・敬神崇祖)であり、もうひとつは「公心」(相互信頼・愛国愛郷)であると考える。

第4回「アメリカの道徳教育改革について」

加藤十八氏(中京女子大学名誉教授・元愛知県立高等学校長)

 日本の道徳教育はアメリカで失敗した後を追っている。進歩主義教育-子供中心主義、非管理教育-教育の人間化・自由化、モラル・ジレンマ法などはアメリカ本国ではすでに破綻している。

 アメリカの教育は、ゼロ・トレランス(寛容さなしの指導)の導入、キャラクター・エデュケーション(人格教育、品性教育-伝統的な徳目を素直に教え、品性を高める教育)など、伝統主義教育に回帰することにより効果を上げている。 

第5回「道徳の教科書(パイロット版)」作成に向けて ―過去に学び、未来を拓く―

丸山敏秋氏(社団法人倫理研究所理事長)

これから道徳教科書をつくる、ということですが、その作成方法として、次の3つ挙げたいと思います。①過去に学び、過去を活かす ②現代の要請に応えた新しい内容を必要に応じて打ち出す。③両者を折衷させる、の3つです。

 まとめると、「温故知新」の精神ということになります。あまりに有名な四文字熟語ですが、論語の本文では、この後にさらに、「以て師(た)るべし」と続きます。全体では、(ふる)きを(たず)ねて新しきを知ることにより、師になれるのである」という意味であり、つまり「師」となる条件を言っているのです。「過去」との繋がりから、「これから」を創っていける人物こそが、リーダー足りうるということです。

 これは言うならば、教育の精神を表したものとも言えます。したがって、この「温故知新」の精神から道徳の教科書をつくっていく必要があると考えています。

 

以降、第十回まで随時更新していきます。